鍼灸の視点から考える、不育症と体質改善について

不育症の診断を受けた時、または流産を経験し「なぜ私だけが?」と感じられている時、その心の痛みはとても深いものだと思います。

大切な命を授かったのに、その喜びが続かなかった悲しみは、言葉では表現できないほど重いものです。

この記事では、東洋医学、特に鍼灸の視点から不育症と向き合い、体質改善によってどのようにサポートできるかをご紹介します。

西洋医学的な治療と並行して、東洋医学の知恵を取り入れることで、心と体のバランスを整え、赤ちゃんを迎える準備を整えていくお手伝いができればと思います。

目次

不育症とは?東洋医学と西洋医学の見方

不育症とは、妊娠(着床)はするものの流産や死産を繰り返してしまう状態を指します。

西洋医学では、免疫学的要因、血液凝固異常、子宮の形態異常、染色体異常、内分泌異常など、様々な原因が考えられています。

一方、東洋医学では体全体のバランスの乱れに注目します。

特に「気・血・水」のバランスが崩れることで、妊娠を維持する力が弱まると考えます。鍼灸治療では、この「気・血・水」の流れを整え、体全体の機能を高めることを目指します。

西洋医学的な不育症の原因

  • 抗リン脂質抗体症候群などの免疫異常
  • 血液凝固因子の異常
  • 子宮形態異常(中隔子宮など)
  • 染色体異常
  • 甲状腺機能低下症などの内分泌異常
  • 高プロラクチン血症

東洋医学的な不育症の見立て

  • 腎虚(じんきょ):先天的な生命エネルギーの不足
  • 気虚(ききょ):全身の活力低下
  • 血虚(けっきょ):血の質と量の不足
  • 気滞(きたい):気の流れの停滞
  • 血瘀(けつお):血の滞り
  • 湿(しつ)・痰(たん):水分代謝の異常

鍼灸治療で目指す不育症への体質改善アプローチ

鍼灸治療では、一人ひとりの体質や症状に合わせた治療を行います。不育症の方への治療では、以下のような点に焦点を当てます。

1. 腎の強化と先天の気の補充

東洋医学では、腎は生殖と深く関わる臓器と考えられています。腎の働きを高めることで、妊娠を維持する力を強化します。

治療ポイント
  • 関元(かんげん):丹田と呼ばれる下腹部のツボで、元気の源を補います
  • 三陰交(さんいんこう):足の内側のツボで、腎・肝・脾の三つの経絡が交わる重要なポイント
  • 腎兪(じんゆ):背中の腎に対応するツボ

2. 血流改善と血の質の向上

妊娠を維持するためには、子宮への十分な血流と良質な血液が必要です。鍼灸治療では、血流を改善し、血の質を高めることを目指します。

治療ポイント
  • 血海(けっかい):血を補うツボ
  • 足三里(あしさんり):全身の気血を調整する重要なツボ
  • 地機(ちき):血の巡りを良くするツボ

3. 気の流れの調整と気滞の解消

ストレスや緊張によって気の流れが滞ると、様々な不調が生じます。特に現代社会では気滞を抱える方が多く、妊娠にも影響を与えます。

治療ポイント
  • 太衝(たいしょう):肝経の原穴で、気の流れを整えます
  • 内関(ないかん):心の緊張をほぐすツボ
  • 合谷(ごうこく):気の流れを促進するツボ

4. 子宮環境の改善

子宮の血流や機能を高め、胎児が育ちやすい環境を整えます。

治療ポイント
  • 子宮(しきゅう):お腹のツボで、子宮の機能を高めます
  • 次髎(じりょう):骨盤内の血流を改善するツボ
  • 中極(ちゅうきょく):子宮と関連の深いツボ

不育症改善のための日常生活の工夫

鍼灸治療と併せて、日常生活でも体質改善を目指すことが大切です。東洋医学の知恵を取り入れた生活習慣の見直しをご紹介します。

食事から考える体質改善

東洋医学では「医食同源」という考え方があり、食べるものが体を作ると考えます。不育症の改善に役立つ食事のポイントは次の通りです。

腎を強化する食材
  • 黒い食材(黒豆、黒ごま、ひじきなど)
  • 栗、くるみなどのナッツ類
  • 羊肉、鶏肉
血を補う食材
  • レバーなどの内臓肉
  • ほうれん草などの緑黄色野菜
  • クコの実、なつめ
気を補う食材
  • 根菜類(ごぼう、にんじん、れんこんなど)
  • 甘味のある食材(さつまいも、かぼちゃなど)
  • 発酵食品(味噌、醤油など)
冷えを避ける

冷たい飲食物や生の食材は控え、温かいスープや煮込み料理を中心にすると良いでしょう。特に下腹部を冷やさないよう注意しましょう。

心のケアと適度な運動

不育症の治療では、心のケアも非常に重要です。不安や悲しみを抱えながらの治療は大変なものです。

ストレス軽減法
  • 深呼吸や瞑想
  • アロマセラピー
  • 趣味の時間を持つ
  • パートナーや家族との対話
適度な運動
  • ウォーキング
  • ヨガ(妊活向けのプログラム)
  • 軽いストレッチ

過度な運動は避け、気持ちよいと感じる程度の活動を心がけましょう。

西洋医学治療と鍼灸治療の併用について

不育症の治療では、西洋医学的な検査と治療が基本となります。鍼灸治療はそれを補完し、体質改善によって治療効果を高める役割を担います。

西洋医学による治療

  • 抗リン脂質抗体症候群:抗凝固療法(アスピリン、ヘパリンなど)
  • 甲状腺機能低下症:甲状腺ホルモン剤
  • 子宮形態異常:手術による矯正
  • 高プロラクチン血症:薬物療法

鍼灸治療の補完的役割

  • 西洋医学的治療の副作用軽減
  • 血流改善による薬の効果促進
  • 自律神経のバランス調整
  • 免疫機能の調整
  • 心身のリラックス効果

きむら鍼灸が不育症に出来ること

最後にきむら鍼灸が不育症に対して出来ることについてお話させてください。

当院には不育症でお悩みの方が多くいらっしゃいます。

当院では不育症の方には、以下のようなアプローチを行います。

  • 肩こり・腰痛などの改善
  • 冷えの改善
  • 自律神経の調整
  • ストレスの緩和

この4つを行うことで、「身体の妊娠力の底上げ」「自己免疫疾患の改善追求」を行い、不育症でも妊娠が継続し、無事出産できる身体を目指します。

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まとめ:不育症と向き合う道のり

不育症の治療は、身体的にも精神的にも長い道のりです。西洋医学と東洋医学、それぞれのアプローチを上手に組み合わせることで、体質改善と妊娠維持の可能性を高めることができます。

鍼灸治療は、痛みの少ない安全な治療法として、妊活中の方にも広く受け入れられています。

一人ひとりの体質や症状に合わせた治療計画を立て、じっくりと体質改善を目指していきましょう。

何度も辛い経験をされている方々の気持ちに寄り添いながら、東洋医学の知恵を活かした体質改善のお手伝いができれば幸いです。赤ちゃんを迎える日まで、ともに歩んでいきましょう。

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