近年不妊に悩むカップルが増加する中、様々な治療法が注目されています。
その中でも鍼灸治療は、伝統的な東洋医学の知恵を活かした方法として再評価されています。
本記事では、最新の研究結果を踏まえながら、鍼灸治療が不妊治療においてどのような効果をもたらすのか、そのエビデンス(科学的根拠)について解説します。
不妊治療における鍼灸の役割

鍼灸治療は不妊に対して「妊孕力(にんようりょく)の改善」をサポートします。
妊孕力とは、妊娠できる力のことを指し、男女それぞれの生殖機能の健全さに関わる重要な要素です。
鍼灸で頭痛・肩こり・腰痛などの症状緩和、不妊治療におけるストレスの軽減を行い、妊孕力の改善を目指します。
女性不妊への対応
鍼灸治療は女性の不妊に対して、主に以下の3つの側面からアプローチします。
ホルモン環境と卵巣機能の改善
排卵障害やPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)などの問題に対応します。鍼治療によるツボの刺激が自律神経のバランスを整え、ホルモン分泌の正常化をサポートします。
子宮環境の改善
子宮内膜の状態や血流を改善し、受精卵が着床しやすい環境づくりをサポートします。
卵子の質の改善
卵巣への血流を促進し、卵子の質の向上に寄与する可能性があります。
男性不妊への対応
男性の不妊にも鍼灸は効果を発揮する可能性があります。
精液所見の改善
精液量、精子数、精子運動率などの改善が期待できます。
性機能の改善
勃起不全などの問題にも効果が期待されています。
これらの改善が見られれば、妊娠後の流産予防や安産へとつながる効果も期待できるでしょう。
自然妊娠の可能性と累積妊娠率について

不妊治療を検討する際に知っておきたい重要な概念として「累積妊娠率」があります。
健康なカップル200組を対象とした研究によると、自然な状態での妊娠率は以下のようになっています。
- 約30%のカップルが最初の月で妊娠
- 約50%のカップルが3か月以内に妊娠
- 約90%のカップルが1年以内に妊娠
このデータは、Zinamanらによる1996年の研究(Fertil Steril誌掲載)に基づいています。
このことから、自然妊娠においても「時間」という要素が非常に重要であることがわかります。
鍼灸治療を始める際も、この累積妊娠率を念頭に置いた上で、継続的な治療と適切な期待設定が大切です。
鍼灸治療の科学的根拠:最新のメタアナリシスから
2022年2月に公開された研究では、女性不妊症の治療法としての鍼治療について、ランダム化比較試験の系統的レビューとメタアナリシスが行われました。
この分析では、真の鍼治療群(本当に鍼治療を受けた)、プラセボ群、無治療群の3群を比較し、臨床妊娠率(CPR)と生児出生率(LBR)を評価しました。
結果として、鍼治療群は他の群と比較して以下の点で有意に高い効果を示しました。
- 出生率:RR = 1.34; 95% CI (1.07, 1.67); P < 0.05
- 臨床妊娠率:RR = 1.43; 95% CI (1.21, 1.69); P < 0.05
- 生化学的妊娠率:RR = 1.42; 95% CI (1.05, 1.91); P < 0.05
- 継続妊娠率:RR = 1.25; 95% CI (0.88, 1.79); P < 0.05
このメタアナリシスの結果は、鍼治療が不妊治療において有効な補助的アプローチであることを示唆しています。
鍼灸治療の適用範囲:IVFとの併用と自然妊娠へのサポート

鍼灸治療は体外受精(IVF)と併用する場合と、自然妊娠を目指す場合(非IVF)の両方でその効果が検証されています。
前述のメタアナリシスでは、IVFでの妊娠率と非IVFでの妊娠率の両方において鍼群の有効性が確認されました。
これは、鍼灸治療が以下のようなケースで効果が期待できることを意味します。
- 体外受精などの高度生殖医療と並行して行う補助的な治療として
- 自然妊娠を目指すカップルのサポートとして
- 他の不妊治療との組み合わせとして
まとめ:鍼灸治療を不妊治療の選択肢として考える
最新の研究結果を踏まえると、鍼灸治療は不妊に悩むカップルにとって検討に値する選択肢の一つと言えます。特に以下の点が重要です。
- 科学的なエビデンスが蓄積されつつあること
- 女性と男性の両方の不妊に対応できる可能性があること
- 自然な妊娠を目指す場合と高度生殖医療との併用の両方で効果が期待できること
ただし、個人の状況や不妊の原因は多様であるため、鍼灸治療を始める前に専門医との相談を行い、総合的な不妊治療計画の中で鍼灸をどのように位置づけるかを検討することをお勧めします。
また治療効果を正しく評価するためには、累積妊娠率の概念を理解し、適切な期間の継続が重要です。
不妊に悩むカップルにとって、鍼灸治療が妊娠への希望の光となることを願っています。
参考文献
- Zinaman MJ, et al. : Fertil Steril 1996 ; 65:503
- Kewei Quan, et al. : https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35222669/ (2022)