【はじめに】

坐骨神経は下肢を支配する最大の神経です。この坐骨神経が何らかの原因で障害されることにより坐骨神経痛を発症します。坐骨神経痛の特徴は坐骨神経領域のしびれや運動障害であり、日常生活に大きな支障をきたす症候群の1つです。

 

【原因】

腰部椎間板ヘルニアなどの整形疾患や股関節手術、外傷、梨状筋症候群などが原因として挙げられますが、病因が不明である場合もあります。

坐骨神経痛を患っているすべての患者のうち、85%の症例が椎間板障害に関連していると言われています。1)他の病因には、長時間の臥床(昏睡など)などによる圧迫、および血腫を含む骨盤内の深部腫瘤が含まれます。

梨状筋症候群とは、坐骨神経が肥大した梨状筋によって絞扼されることで起きる症候群ですが、明確な診断基準はなく、基本的には除外診断となります。

 

 

 

 

 

【西洋医学的治療法】

基本的にはブロック注射や痛み止めの内服が主な治療になります。

 

ブロック注射:局所麻酔や抗炎症剤を神経の周りや神経へ直接注入する治療法。

内服薬:抗炎症薬、痛み止めなどの処方

装具:コルセットにより、骨盤の矯正を行います。

 

【当院での治療法】

“鍼治療の目的”

  1. 疼痛の抑制
  2. 坐骨神経の機能回復
  3. 梨状筋をはじめとした筋緊張の緩和

 

“鍼治療の内容”

坐骨神経やその周囲のツボ(胞肓、秩辺、大腸兪、陽陵泉、懸鐘、承山など:足腰のツボがメインになります。)を鍼で刺激し、さらに電気の治療を合わせることで神経機能の改善を図ります。

また、坐骨神経を締め付けている筋肉を和らげることにより、神経の障害を防ぎます。

 

【鍼治療のエビデンス】

“坐骨神経の回復について”

坐骨神経を傷つけたネズミに鍼と電気刺激を行うことによって、坐骨神経が回復するかを調査した論文をご紹介します。2)

 

左図:正常な歩きができているかを評価した図

右図:坐骨神経を傷つけられた方の足に、どのくらい力が入っているかを評価した図

↑(矢印)は、坐骨神経挫滅後3〜11日までの期間に、鍼治療を(1回15分間、2日ごと)を実施したことを示しています。

〇:鍼+電気をしたネズミ

:普通のネズミ

 

鍼をした群では、足の力が強く出ており、正常な歩行もできるようになっています。

 

この研究では

①鍼と電気の刺激は運動神経の機能を改善させること

②鍼治療が痛みを緩和させること

を示しています。

 

“人を対象とした坐骨神経痛の研究”

人の坐骨神経痛と鍼治療の効果を検討した論文をいくつか集めて、鍼治療が本当に坐骨神経痛に良いのかを検討した研究があります。

 

 

 

 

9つの研究を集めて、薬群と鍼治療群で効果の差を調べました。3)

結果:鍼治療が臨床的に効果的であり、痛みの強さを軽減し、薬物療法と比較して坐骨神経痛の患者の痛みの閾値を増加させることを示しています。

 

 

 

 

また、鍼治療群では、従来の投薬を受けた群よりも痛みの強さが大幅に減少したことが明らかになりました(MD:-1.25; 95%CI:-1.63〜-0.86; P <0.00001)

 

したがって、鍼治療は、痛みを和らげ、運動神経機能の改善に役立つことがネズミを使った実験で示され、その結果はおおよそ、人にも当てはまることが分かりました。

 

【参考文献】

1)Shefner JM, Overview of lower extremity peripheral nerve syndromes. This topic last updated: Feb 14, 2020.

2)Hoang NS, Valmier J, Sieso Vi, and Scampscorresponding F. Electro-acupuncture on functional peripheral nerve regeneration in mice: a behavioural study. BMC Complement Altern Med. 2012

3)Mei Ji, Xiaoxia Wang, Meijuan Chen, Yan Shen, Xu Zhang and Jin Yang. The Efficacy of Acupuncture for the Treatment of Sciatica: A Systematic Review and Meta-Analysis. Evid Based Complement Alternat Med. 2015.

 

【最後に】

坐骨神経痛は生活に大きな影響を及ぼすつらいものです。お悩みの方はぜひご相談ください。