1. しびれについて

一般的に使う「しびれ」には様々な意味合いがあります。

例えば、ピリピリ、ジンジン、チクチク感じるものもあれば、触っていても全く触れられている感じがしない場合もあります。医学的に、ピリピリ、ジンジン、チクチク感じるものは異常感覚、感覚過敏、異痛症などに分類され、触っていても全く触れられている感じがしない場合などは知覚鈍麻、知覚消失などの感覚障害として捉えます。このように、「しびれ」は大変広い意味合いで用いられるため、しっかりとしたお話を聞いたうえで、正しく分類し、原因を突き止め、対処法を考えていく必要があります。

 

  1.  しびれから考えられる疾患

ピリピリ、ジンジン、チクチクなどは脳をはじめとした神経系で感じますが、必ずしも神経が関連するとは限りません。

  • 神経系の障害:脳梗塞後遺症、脊髄損傷、ギランバレー症候群
  • 整形外科疾患:手根管症候群、頚椎/腰椎ヘルニア、坐骨神経痛
  • 循環障害   :大動脈瘤/解離、閉塞性動脈硬化症、下肢静脈不全
  • 電解質異常 :低K血症、低Ca血症
  • 内分泌疾患 :甲状腺機能低下症、副甲状腺機能低下症
  • 代謝性疾患 :糖尿病性末梢神経障害
  • 薬剤性   :薬剤性末梢神経障害 ※化学療法など

上記の疾患は代表例であり、たくさんのしびれを呈する疾患があります。

 

  1.  しびれに対する鍼灸/鍼灸により効果が期待できる疾患
  • 整形外科疾患:手根管症候群、頚椎/腰椎ヘルニア、坐骨神経痛
  • 代謝性疾患 :糖尿病性末梢神経障害
  • 薬剤性   :薬剤性末梢神経障害 ※化学療法など
  • 神経系の障害:脳梗塞後遺症、ギランバレー症候群

などは効果が期待できますが、それぞれの疾患で改善の度合いが異なるため、患者様の目的に合わせて、適応/不適応を考える必要があると思われます。

 

【部位による痺れの範囲】

※中枢神経障害

※末梢神経障害

左から

単神経障害  :手根管症候群、坐骨神経痛など

多発単神経障害:多発動脈炎、血管炎など

多発神経障害 :糖尿病、アミロイドーシスなど

 

 

  1. CIPNに対する鍼灸の効果

「がん」の治療にはよく化学療法が用いられます。がんに対抗できる薬の一つですが、その副作用は大変多く、その中に手足の痺れがあります。化学療法による手足のしびれは、患者さんのリハビリを阻害し、体力低下を引き起こすだけでなく、日常生活の質の低下などにも影響するため、可能な限り早い改善が望まれます。しかし、これらのしびれに対して有効な治療法は限られています。

古くから、末梢神経障害に対して鍼灸治療が用いられており、2018年には化学療法後のしびれ(CINP)に対して鍼灸治療の効果を評価した論文が発表されました。

【目的】

ボルテゾミブを服用してしびれが出た患者様のしびれが14週間で改善するか。

【方法】

治療回数:10回

場所 :手の合谷、曲池、外関というツボと足の豊隆というツボ+耳鍼

刺激 :ズーンとした感覚を感じる程度

【研究結果】

FACT / GOG-Ntx(①感覚神経、②運動神経、③聴神経、④機能障害)を用いて、鍼の効果を検討したところ、感覚神経および運動神経の改善が顕著であった。

NPS(Neuropathy pain scale)でも痛みの強さ、重だるい痛み、温冷覚、不快感などは有意に改善していた。

 

Iris Zhi. Evan Ingram. Susan Qing Li. Patricia Chen. Lauren Piulson. Ting Bao. Acupuncture for Bortezomib-Induced Peripheral Neuropathy: Not Just for Pain. Integr Cancer Ther. 17:1079–1086. 2018.

 

 

  1. 手根管症候群に対する鍼灸治療

手根管症候群は、手先の痺れを主症状として発症する疾患です。正中神経という神経が手首の手根管という部位で障害(圧迫)されることによって起こります。手先をよく使う仕事をしている人がなりやすいと言われていますが、関節リウマチ、糖尿病、アミロイドというたんぱく質が沈着するアミロイドーシスなど様々な疾患の合併症としても発症します。

手根管症候群の治療は、重症度によって異なります。

軽-中の場合:① 消炎鎮痛剤、ステロイドの服用

② 添え木をつけて安静にする。

重症の場合 :③ 手術

ステロイドは治療効果が高い治療である一方で、糖尿病や副腎不全などの発症リスクもある注意して服用すべき薬です。今回紹介する論文は、服薬の代わりに鍼治療を用いることで、同様の効果を引き出せるかを検討しています。

 

【目的】

鍼治療の効果をステロイド投与群と比較しました。

【方法】

治療回数:8回

場所 :手の大陵、内関というツボに鍼を25mm程度刺します。

刺激 :ズーンとした感覚を感じる程度。

【結果】

鍼治療の効果をステロイド投与群と比較したところ、痛みしびれ異常感覚力の入らなさが改善した度合いは、ステロイド投与群と同等の効果でした。更に、夜間に起床する頻度は鍼治療群で優位に改善しました。

有害事象は鍼治療群で5%、ステロイド投与群で18%でした。

 

 

 

Yang, C. Hsieh C. Wang, N. Li T. Hwang  K.  Yu S. Chan, M. Acupuncture in Patients With Carpal Tunnel Syndrome: A Randomized Controlled Trial. The Clinical Journal of Pain. 25:327-333. 2009.