【はじめに】

手根管症候群は、“正中神経”という神経が手首の“手根管”という部位で圧迫されることによって起こる症候群で、一般的には痛みや感覚の異常、力の入らなさが出現します。

子供よりも大人に多く発症する症候群で、子供がなることは稀です。男女比は女性に多いことが知られています。また、手先をよく使う仕事をしている人がなりやすいと言われていますが、関節リウマチ、糖尿病、など様々な疾患の合併症としても発症します。

 

【手根管症候群のリスクファクターについて】

①肥満、②女性、③妊娠、④糖尿病、⑤関節リウマチ、⑥変形性関節症、⑦甲状腺機能低下症、⑧アロマターゼ阻害剤の使用、⑨オーバーユース

この9つのリスクファクターがあるときに手根管症候群は発生しやすいといわれています。

〈性別〉

近位手根管の断面積は、男性よりも女性の方で小さいことが知られていることから、男性より女性のほうが手根管症候群を発症しやすいといわれています。さらに、手根管症候群のある女性は、手根管症候群のない対照女性よりも断面積が小さいと報告されています。

〈妊娠〉

手根管症候群は、妊娠後期に発症しやすいと言われています。ほとんどの場合、症状は出産後の数週間で徐々に緩解するため、治療は、添え木によって手首を固定するだけでよいと言われています。妊娠中に手術が適応となることは滅多にありません。

〈アロマターゼ阻害剤〉

アロマターゼ阻害剤の使用は、不使用と比較して、手根管内の腱の厚さを大幅に肥厚させるという研究があります。この結果から、アロマターゼ阻害剤による手根管症候群は腱が肥厚することによって起きるといわれています。

 

【原因】

手首の白い腱(屈筋支帯)の下を通る黄色い線が、正中神経で、白い腱の下で圧迫されることによりしびれが起きます。しびれが出てくる領域は親指~薬指になります。

 

青:痺れる範囲

 

 

 

 

 

 

 

【西洋医学的治療法】

妊娠などの一時的に起こるものや、手根管症候群の重症度が軽度-中等度(正中神経の損傷がない)であれば、添え木での固定、ステロイドの注射、ステロイドの内服などの非外科的治療を行います。

しかし、重症度が中等度から重度の場合に神経電動検査を行い、神経の損傷が確認できた場合、外科的手術が必要となります。

 

“重症度別の治療”

軽-中の場合:① 消炎鎮痛剤、ステロイドの服用

② 添え木をつけて安静にする。

重症の場合 :③ 手術

 

“以下の状態のときには、手術をした方が良いとされます。”

  • 症状が長期間続く(> 6〜12か月)
  • 年齢が50歳以上
  • 2点弁別障害(> 6 mm):手のどこかを二カ所触った時、一カ所にしか触れられている感覚がない状態。
  • 神経電動検査での運動/感覚神経の潜時延長:神経の状態が悪い時

 

【当院での治療法】

鍼治療の目的

  1. 痛みの緩和
  2. 正中神経の機能回復
  3. 手根管の炎症の緩和

 

治療内容

手の内側のツボ(大陵、内関など)を鍼で刺激することにより、痛みや炎症を緩和させます。

また、正中神経の近くに鍼を刺し、鍼に電気の刺激を入れることにより、正中神経を刺激し、神経の機能の回復を助けます。

 

【鍼治療のエビデンス】

手根管症候群の治療に使うステロイドは、治療効果が高い薬である一方で、糖尿病や副腎不全などの発症リスクもある注意して服用すべき薬です。今回紹介する論文は、服薬の代わりに鍼治療を用いることで、同様の効果を引き出せるかを検討しています。

 

≪目的≫

鍼治療の効果をステロイド投与群と比較しました。

≪方法≫

治療回数:8回

場所 :手の大陵、内関というツボに鍼を25mm程度刺します。

刺激 :ズーンとした感覚を感じる程度。

≪結果≫

鍼治療の効果をステロイド投与群と比較したところ、痛みしびれ異常感覚力の入らなさが改善した度合いは、ステロイド投与群と同等の効果でした。更に、夜間に起床する頻度は鍼治療群で優位に改善しました。

有害事象は鍼治療群で5%、ステロイド投与群で18%でした。

 

【最後に】

当院ではこのような治療を実施しておりますので、お困りの際は、ぜひご相談ください。